移動する作家の記録〜『溶ける街 透ける路』

●多和田葉子著『溶ける街 透ける路』/日本経済新聞出版社/2007年5月発行

b0072887_19431964.jpg 多和田葉子が世界各地を旅して回った記録である。文学フェスティバルや朗読会などで訪れた都市が知的好奇心にみちた視線でスケッチされていて、なかなか面白い。日本経済新聞に連載したエッセイということで短い文章から成り、彼女特有の良い意味での毒気や思考のラジカルさは薄められてはいる。とはいえ「創造的な活動は、まず解釈不可能な世界に耳を傾け続けるところから始まるのではないか」(p166)など、さりげなく記される結びの言葉に体験に裏打ちされた鋭い警句が刻まれていたりするから油断ならない。

 本書で紹介される都市はヨーロッパが中心だが、どの文章でも現地で交流のあった人たちの様子が描かれていて、それぞれの都市の息吹のようなものが伝わってくる。
 またいかにも文学者らしい、言語に対する独特の感性とスタンスから織りなされる文章は、何といっても多和田の随筆の一大特長で、『エクソフォニー』と同様、彼女の小説を読み解くうえでも示唆深い内容だ。もちろん、本書に綴られた何気ないエピソードの一つひとつにも短編小説のような余韻が感じられる。
 
 それにしても、ヨーロッパでは文学に関連したイベントやパフォーマンスがことのほか盛んなことに驚かされる。彼の地で文学者をやっていくためには単に書いているだけではダメで、ライブ・パフォーマーとしての資質や度胸も必要なのかと思ったのだった。
by syunpo | 2008-02-29 19:45 | 文学(小説・批評) | Trackback | Comments(0)
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