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住環境を守るために〜『建築紛争』

●五十嵐敬喜、小川明雄著『建築紛争』/岩波書店/2006年11月発行

b0072887_1639304.jpg 本書は、わが国の「法治国家」としての内実がいかにお寒いものであるか、「建築紛争」をとおして見たものである。立法・行政・司法の三権さらにはマスメディアがこの問題について市民を軽視し、建設業界に阿っている実態が明らかにされる。日々の事件報道からはよくわからない都市開発・建築をめぐる政官財の構造的な問題が緻密に論じられていて、たいへん有益な本だ。著者は建築紛争に詳しい弁護士とジャーナリストである。

 二〇〇五年に発覚して社会問題になった耐震強度偽装問題は、現在のわが国の建築行政の欠陥を象徴する氷山の一角ともいうべきものである。そうした違法建築は規制緩和と建築確認の民間への開放という住宅政策の大転換によって助長された。一九九八年の建築基準法改定がその転換の仕上げといえるものであった。
 建築基準法改定の眼目は、建築確認・検査の民間参入のほかに、仕様規定から性能規定への転換がある。一定の性能を満たせば建築物の材料や構造を問わず適法とするものだ。これにより、新たに認定される構造や部材などを使い、柱を細くし、壁を薄くしてもいいことになった。業者のコスト削減競争に拍車がかかり、「偽装」や「手抜き」を生む土壌がより広がった、といえる。
 日本弁護士連合会はこうした行政の動きに警鐘を鳴らしていたが、公権力を監視するはずのマスメディアは、国土交通省の意向に沿う形で「市場の活性化が見込まれる」などと翼賛記事を垂れ流していたことも著者は同時に批判している。

 高層建築において大幅なコスト削減の道が開けたことにより、周辺住民との紛争も増加してきた。住宅地に突然出現した高層マンションをめぐる紛争は「一団地認定制度」などの抜け穴を利用して「合法的」に一つの敷地内に複数の巨大な建築物を建てることにより発生することが多い。そうした「数の偽装」を民間の検査機関や行政が追認し、住民がやむなく裁判に持ち込んでも建築に疎い裁判官によって結局は業界寄りの判決が下る、というのがお決まりのパターンである。

 つまり一九八〇年代から始まった「小さな政府」「民活の導入」というスローガンによる建築行政の変革は、住民よりも業界の利益を優先するものであった、と本書は明快に指摘する。

 ……街並みが破壊され、周辺住民たちの生活が半永久的に破壊されるという「破壊の連鎖」が続いている。「官から民へ」のスローガンのもとに起きている高層建築物に圧倒され激変するまちの姿は、「民」とは市民ではなく、民間の大企業、とくに不動産業界や建設業界であることを如実に示している。(p133)
 
 とはいえ、希望の光がまったく見えないわけではない。
 住民と直接接する自治体のなかには高層建築を住宅地から締め出す高さ制限を設けるところがいくつも出てきた。とくに被害の大きい都内の区や市では、この数年、その動きが目立ってきている。絶対高さ制限は、都市計画法に定められている「建築物の高さの最高限度又は最低限度」を自治体が決めることができる制度である。地方分権が叫ばれるなかで、これからの街づくりは地方自治体の指導力が大いに期待されるのである。
 さらに本書では、地方分権を踏まえたうえで今後の対策として、建築士の職能化・独立性の強化、確認制度から建築制度への変更などを提起している。いずれも検討に値するものだろう。
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by syunpo | 2008-04-07 17:01 | 建築 | Comments(0)
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