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市民のための入門書〜『憲法への招待』

●渋谷秀樹著『憲法への招待』/岩波書店/2001年11月発行

b0072887_20353363.jpg 憲法は私たちが守らなくてはならないものか。
 外国人にはなぜ参政権がないのか。
 天皇が「象徴」であるとは、どういうことか。
 ……などなど、二十四の問いに答える形で日本国憲法の思想や基本概念をわかりやすく解説した本である。

 誰もが注目する論題、九条と現実との乖離という古くて新しい問題については、憲法規範の特性ということから説明を試み、「目標規範性」と仮称する考えを提示する。
 それ以上に私が興味深く読んだのは〈国民代表が決めた法律を、裁判所が違憲・無効とできるのはなぜか〉〈内閣の行う「行政」は定義できないか〉など、多くの国民が素通りしているような問題に関する記述だ。

 裁判所の違憲審査権などは、法の素人からすれば「権力分立」などの観点から何となく当然の権限のように思ってきたのだが、厳密に憲法学的に考えてみると複雑な問題であるらしい。民主的な手続きを経て選ばれた国会議員の決めた法律を場合によっては無効とする判断ができる裁判所の活動は、そのかぎりにおいて「代表者の意思と決定的に対立関係に立ち、民主主義と対決することになる」からだ。裁判所に付与されたこの権限の根拠をどのように説明するのかは「理論的には難問」だと著者はいう。
 いくつかの学説を紹介した後で渋谷が採る理論は、ざっと要約すれば、国会・内閣は(多数決原理による)民主主義の原理に基盤を置く機関で、憲法裁判を行う裁判所は(少数者の人権を保障する)立憲主義の原理に基盤を置く機関である、違憲審査権は憲法によって保障された権利や自由が民主主義の原理によって侵犯されることを防ぐために裁判所に与えられた権限だ、とするものである。

 現行憲法は、立憲主義と民主主義を基本原理として組み込んでいますが、人権規定を置くことによって、両者が衝突すればそこで問題となる権利の性質によっては、立憲主義の原理に重きを置くことを定めていることになります。(p148)

 また、今後の国内政治の大きな課題である地方自治・地方分権についても、憲法が規定している中央政府と地方政府の二元構造を基に、その両者のあるべき関係がわかりやすく論述されていて勉強になった。

 中央政府と地方政府との関係について、渋谷は「原理的に、中央政府も地方政府も、主権者の同意に統治権の根拠を見出すことができますから、この点からして、両政府は、本来対等の立場にある」との認識を示したうえで「補完性の原則」を強調している。
 補完性の原則とは、「まず一番狭い地域を担当する政府に、日常生活に密着した仕事と権限が配分され、その結果残された仕事が順次、より広い地域を担当する政府へと割り振られる。そして、最終的に残った仕事が、最も広い地域を担当する政府に配分されていく」というものである。この考えによれば、地方分権という自治体からの要請は、憲法に内在する原理に則ったものであり、その意味で憲政上の必然的な潮流なのだということがよくわかる。
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by syunpo | 2008-05-21 20:47 | 憲法・司法 | Comments(2)
Commented by go_n_ta at 2008-05-21 22:50 x
立憲主義と民主主義の対立場面は、政治的表現の自由を規制する立法の違憲審査を想定するとわかりやすいですね。国会が、政治的表現を規制する法律を制定した(例えば、治安維持法)。かかる法律は、民主主義過程自体を傷つける。表現の自由が規制されている状況において、民主主義は機能不全に陥る。よって、裁判所が違憲審査権を行使して、かかる法律を無効とし、民主主義が健全に機能する状態を回復しなければならない。
そういう理屈です。
Commented by syunpo at 2008-05-22 10:16
go_n_taさま、
平明にご解説いただき、ありがとうございます。
引用した文章の前段で、実は渋谷氏も米国での法理論状況として「政治活動の自由を制約する法律」を例に引いてほぼ同趣旨の説明をしておりました。あらためて、いただいたコメントと本文を読み直し、理解を深めたところです。
民主主義じたいが、時に立憲主義ひいては民主主義の過程そのものを傷つける振る舞いをすることがある、それへのブレーキ役を立憲主義を体現する司法が担っている、ということですね。

民主主義を尊重しながらも、その民主主義じたいが逸脱した場合を想定して裁判所に違憲審査権を付与している、という仕組みは(それが十全に機能しているかどうかはよくわかりませんが)、よく出来たシステム、まさに人類が幾多の経験をふまえて蓄積してきた知恵といってもいいかもしれませんね。
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