●山口仲美著『日本語の歴史』/岩波書店/2006年5月発行
日本語の歴史を「話し言葉と書き言葉のせめぎあい」という観点から概説した本である。ただし時代によって記述の主題をかえている点に本書の特色がある。奈良時代は文字、平安時代は文章、鎌倉・室町時代は文法、江戸時代は音韻と語彙を中心に論述し、明治以降はもっぱら言文一致体について述べている。こうした叙述スタイルを採った理由は、本文を読めばそれなりに理解できるものだ。日本語の歴史のあらましをざっと知りたいという読者には、よく書けた入門書ではないかと思う。 幕末に「漢字廃止」の議を唱えた前島密や明治時代にローマ字を国字にせよと訴えた「羅馬字会」の運動など、現代からみれば噴飯モノと思われる主張が大真面目になされた文脈や背景を知るだけでも本書を読む意義はあるというべきだろう。それらはいずれも話し言葉と書き言葉がかけ離れている状況に危機意識をもった知識人による問題提起だったのである。 もっとも、明治以降に開始された「言文一致体」については、もともと文学上の問題として文学者・作家が起こした運動を核とするものであったから、その考察には文学史的な視点は不可欠なのだが、著者は分をわきまえてあくまで日本語学的な観点からのみ分析している。記述がいささか平板に終わっているのを批判するのは酷だろう。 この言文一致体運動をめぐる困難に関しては、柄谷行人の《定本柄谷行人集〜日本近代文学の起源》に秀逸な論考が収められていることを付記しておく。
by syunpo
| 2008-11-30 18:39
| 日本語学・辞書学
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