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2019年 05月 04日 ( 1 )

政治学者と作家の異色の対論〜『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』

●原武史、三浦しをん『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』/KADOKAWA/2019年2月発行

b0072887_18474207.jpg 天皇制の研究で知られ、同時に「鉄学者」としての一面ももつ原武史が作家の三浦しをんと対話を交わす。天皇制という日本政治の根幹に関わる論題がメインになっているが、全体をとおしてリラックスした雰囲気で話は進む。三浦はもっぱら聞き役に徹して、原の事細かな知見を引き出しながら、随所で巧みに絡んで面白い対談集に仕立てている。

 対話の多くが皇室論に費やされているなかで、生前退位をめぐる日本社会の反応に対して原が違和感を表明している点はやはり傾聴に値する。

「存命中の天皇が主語に使われるトップニュースはにわかに信じがたく、きわめて強い違和感を抱きました」と述べ、当初NHKだけが一元的に情報を独占していた点について「後世、必ず検証されるべき事態」と指摘している。天皇の意向を受ける形で政府が法の改正や制定に着手するのは順番がおかしいというのも憲政上の一つの見識を示すものだろう。

 またそれ以外に印象に残ったのは大正天皇に関するやりとり。健康に恵まれず在位期間が短かかったこともあって言及されることの少ない天皇であるが、原は一時期の自由な行動に関して好意的あるいは同情的に論じている。

 たとえば大正天皇が作った漢詩の材料は「葉山でヨットに乗る、日光で馬に乗るといった感じで、漢詩がまるで夏休みの絵日記のようです」。後年、病気がちで摂政を立てられたという経緯から想像されるのとは少し違った人間像が立ち上がってくる。さらに皇太子時代は全国を積極的に回り、人力車夫や機織りの少女や路傍の子供たちなどにも話しかけていたという。
「天皇になってそういったことが許されなくなったのは、体調悪化の原因になったと思います」と推察するくだりも興味深い。

 三浦の発言で鋭いと思うのは、男系天皇に固執する意見に対して繰り返し疑義を呈している点だ。私自身も女系天皇を認めない理由について説得力ある根拠を示している見解を読んだ覚えがない。

 また原の「鉄学者」としての一面も本書からは濃厚に立ち上がってくる。そのなかで鉄道の駅が社会の変化を露骨に反映して変化していることに言及している点は特記しておきたい。JR各線の主要な駅では大都市の富裕層しか入れないスペースを作ることが進んでいるらしいのだが、原それに対しては批判的なのはいうまでもない。「鉄道が格差を可視化する装置になっていき、駅が公共空間としての性質を失っていく」のは鉄学者ならずとも由々しき事態だと思う。

 このほか『シン・ゴジラ』を鉄学的に論評する対話もおもしろいし、二人が揃って鬼怒川温泉に出かけて特急「スペーシアきぬがわ」で対話を交わすという趣向も愉しい。
 三浦の愛読者にはどのように読まれるのかはよくわからないが、対談としては異色の組合せでうまい具合に化学反応が生じているように思われる。その過程で原のオタクぶりが単著以上に浮き彫りになるという本である。

by syunpo | 2019-05-04 20:02 | 政治 | Trackback | Comments(0)