寛容の精神を説く〜『国家と神とマルクス』

●佐藤優著『国家と神とマルクス』/太陽企画出版/2007年4月発行

b0072887_16545313.jpg 本書は、著者がここ最近、雑誌などに発表した文章を一冊にまとめたもの。国家についての論考や書評のほか、巻末に長大なインタビューが収録されている。既刊書に比べるといささか退屈で、寄せ集め感は否めないものの、右から左まで実に幅広いスタンスで雑誌に寄稿し、書物を読み、語る佐藤の「寛容の精神」がよくでている書物といえる。

 佐藤が大学生活を過ごしたのが私とまったく同じ時期であることを知る。私たちは、まさに「なんとなく、クリスタル」な時代にキャンパスライフを送った世代なのであるが、白井聡によるインタビューでは、大学時代を振り返るのに「ブント」だの「全学ロックアウト」だの「党派」だの「ヘルメット」だのという語句がでてきて、少々ビックリ。時を同じくしても通った大学が違うと、回顧談も別世界。凄いなぁ、同志社ガラパゴス!
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# by syunpo | 2007-09-27 19:06 | 思想・哲学 | Trackback | Comments(0)

医療崩壊を防ぐために知る〜『医療の限界』

●小松秀樹著『医療の限界』/新潮社/2007年6月発行

b0072887_20122460.jpg マスメディアによる一方的な病院・医師バッシングや刑事司法による医療への介入が隆盛をみる昨今、医療現場からの肉声に触れることは大いに意義のあることだろう。本書の著者は虎ノ門病院泌尿器科部長。過酷な勤務と過大な責任、加えて、患者からの攻撃に意欲を失い、多くの医師、看護師が病院勤務を離れつつある現象を「立ち去り型サボタージュ」と呼び、崩壊に向かう医療現場の状況を社会に広く知らせようとする医師である。

 本書の前半では、医療問題そのものというより、もっぱら医療現場から提起された検察・司法制度改革論といった趣の強い記述がなされている。後半では、医療崩壊を食い止めるための具体的な施策提言やみずから勤務する病院の試みについて詳述される。
 現在の医療現場が抱える問題が具体的に明らかにされ、それに対する政策提言や取組みが紹介されている点など、医療問題を考える上でたいへん有益な本である。

 小松は、医療とは元来不確実なものであり、万全を尽くしてもなお予測できない結果が生じることは不可避であることを力説する。患者の過剰な期待や要求が、時に刺々しい紛争を生みだし、司法の無理な介入が医師たちの士気を低下させている、という。
 そのうえで、医療提供者の過失を証明することなしに、患者側と医療提供者を争わせずに、避けられた傷害について、補償という形で被害者を救済するスウェーデンの制度を紹介している点などは興味深く読んだ。

 ただ、必要以上に、メディアや司法、患者に対して断定的な決めつけや挑発的な言葉遣いが散見されるのには、少々違和感を拭えなかった。世間からの一方的な医師バッシングについては、医師に同情的な声は今や少なくないのだから、ここはもう少し冷静な議論を期待したいものだ。

 また、小松はなかなかの教養人らしく、医療制度の改革や、その基礎となる社会の成り立ちについて述べるにあたって、中西輝正やハイエク、オルテガなど社会科学の知見を数多く引用している。それにしても、米国の産業医療の解説をするのにわざわざトクヴィルを引用して、大雑把にピューリタニズムから資本主義への隆盛を説くくだりなどは、正直、辟易させられた。
 医療の問題が、「思想」の問題と大いに関係のあることは理解するものの、本書の趣旨からすれば、現場からの具象的な問題提起に徹した方がより説得力を増したような気がする。
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# by syunpo | 2007-09-24 20:16 | 医療 | Trackback | Comments(0)

辣腕検事から刑事被告人へ〜『反転』

●田中森一著『反転 闇社会の守護神と呼ばれて』/幻冬舎/2007年6月発行

b0072887_11182787.jpg 著者の田中森一は、大阪地検、東京地検の特捜部で辣腕をふるった元検事。弁護士に転じてアウトローの代理人などとして暗躍、許永中とともに石橋産業事件で詐欺容疑で逮捕・起訴され、東京高裁で実刑判決を受けた人物(現在上告中)である。

 みずからの生い立ちから書き起こし、司法試験に受かるまでの苦労話や検察時代の手柄話、そして弁護士に転じてからの「転落」と「国策逮捕」のありさまが時に生々しく綴られている。結論的にいえば、読み物としてはそれなりに面白いが、全体をとおして茫漠とした読後感しか残らなかった。

 同じように「国策捜査」で辛酸を舐めることになった元検事の三井環や元外交官の佐藤優らに比べると、田中森一は良くも悪くも俗っぽい人間として立ち現れる。それが本書の面白味でもあり、また弱みでもあるように思える。
 何より私自身、この著者に対する共感をおぼえる場面は少なかったし、田中が悪魔的な魅力を感じていたらしい山口組幹部や許永中についても、本書の描写からその魅力の片鱗を感受することは困難であった。

 ここには、表社会のエスタブリッシュメントと裏社会の猛者たちとの交流や接点がいくつも語られている。それらの挿話に触れれば、日本社会の成り立ちが一筋縄ではいかないことをあらためて認識させられる。そこから、どのような教訓や結論を引き出すかは、読者の関心の在り処によって違ったものになるだろう。
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# by syunpo | 2007-09-22 11:22 | ノンフィクション | Trackback | Comments(2)

新時代の経済原理〜『ウィキノミクス』

●ドン・タプスコット、アンソニー・D・ウィリアムズ著『ウィキノミクス〜マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ』(井口耕二訳)/日経BP社/2007年6月発行

b0072887_20283384.jpg 「ウィキノミクス」とは、世界中の不特定の人たちがフラットなネットワークをとおして協働するような生産形態またはその原理をいう。そこでは階層型の指揮命令系統は存在せず、参加者の自発的な秩序形成が核を成す。
 その四大原則として、著者は「オープン性」「ピアリング」「共有」「グローバルな行動」を挙げている。その具体的成果は、ネット上の百科事典「ウィキペディア」、オペレーティング・システム「リナックス」などにみることができる。

 ウィキペディアの前身も当初はトップダウンの階層構造をとり、学者や専門家に報酬を支払って事前承認した記事だけを公開していた。しかし、創始者はその非効率を知って、一九九五年、参加意欲さえあれば誰でも参加できるオープンな形でやり直しを図る。その後の急成長ぶりはネットユーザーなら誰もが知っていることだろう。
 現在、ウィキペディアは数え切れないほどのオンラインボランティアが項目を執筆し、編集し、継続的にモニタリングを行なっている。百万人をこえる登録ユーザーのうち、十以上の項目に関わったのは、十万人ほどだという。

 もちろん、ウィキノミクスの成果は、何もネット上に限られた話ではない。
 経営危機に瀕していた金鉱山会社ゴールドコープ社が自社の地質データを公開して新鉱脈の発見を低コストで成功させ甦った話、ボーイング社がオープンプラットホームを活用して六大陸のパートナー企業と協創し新型機を製造した話……などなど具体的な成功例をふんだんに盛り込んで、ウィキノミクスの可能性が生き生きと提示されるのである。

 ウィキノミクスの四大原則ーーオープン性、ピアリング、共有、グローバルな行動ーーは、いずれも、企業管理職にとって唾棄すべきものと感じられるかもしれない。しかし、本書で繰り返し示したように、この四大原則は前代未聞のスケールで革新を推進し、富を形成する力となりうる。それだけでなく、科学的な探求を行い、文化を創造し、情報を伝達し、教育を行い、そして、コミュニティや国家を統治運営する方法までも変えるほどの力がある。(p429)

 記述に繰り返しや重複が多く、その分を整理すればもう少し読みやすく薄い本になっただろう。その点が惜しまれる。だが、ビジネスマンはもちろん人間社会の成り立ちに少しでも関心のある者ならば、読んでおいて損はない。

 クリフォード・ストールの駄本『インターネットはからっぽの洞窟』から十年、時代は明らかに進化したのだ。
 もちろん、ウィキノミクスにも問題点や克服すべき課題は存在する。それは、自由闊達なコミュニティが宿命的に孕む欠陥であるが、その欠陥故に原理そのものが否定されるべきでもない。
 本書は、新たな時代の新たな経済原理を示した本である。
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# by syunpo | 2007-09-11 20:34 | ビジネス | Trackback | Comments(0)

階層化社会を生き延びるための〜『ケンカの作法』

●辛淑玉、佐高信著『ケンカの作法』/角川書店/2006年4月発行

b0072887_211624.jpg 人材育成コンサルタントの辛淑玉と評論家の佐高信の対談集。後半には、上野千鶴子が加わった鼎談が収録されている。

 「批判しなければ、日本は滅ぶ」のサブタイトルどおり、小泉政治、石原都政をはじめ、日本の企業体質や政財界にみられる世襲の弊害などについて厳しい批判の刃が向けられる。手当たり次第にバッサバッサと切り刻んでいく語りは、なかなか痛快である。
 とりわけ、上野をまじえた鼎談が面白い。日本青年会議所の二世会員たちのオジサンぶりを皮肉り、石原が支持される時代の恐ろしさを語り、宗教家と社会学者の語彙の違いを上野が明快に指摘するくだりなどが印象に残った。
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# by syunpo | 2007-09-09 21:02 | 社会全般 | Trackback | Comments(0)